日本美術史に於いての"核"と"根幹"展

 
中古・中世・近世・近代という系譜で日本の書画は発展を遂げて行きますが、そこには時代別に応じた発展と価値観に応じた需要が存在し成り立っていきます。
島国である日本の文化は、大陸文化とは異なり独自の"美意識"や"情緒"と言う内面を表しています。
信仰・文化・需要・反映・と言った成り立ちを日本美術史で最も重要な"核"と"根幹"であるべき書画と言う分野を通して感じて再認識頂ける事を願っています。

第3期 琳派の流れ

本阿弥光悦と俵屋宗達が起源となる琳派と言われる画壇の起源は、桃山時代迄遡ります。
俵屋宗達が歿した100年後、尾形光琳が現れ、宗達の画に私淑した事で、琳派と言われる系譜が生まれました。
琳派の琳は光琳から一文字充てた文字です。
宗達から生まれた琳派は尾形光琳によって大きな流れとなり、時代を象徴するかの様に発展を遂げていきました。
本展では作家の名前以上に各作品自体の時代別の色を感じて頂けることを願っております。
 
 
本阿弥空中冩楓図
加藤栢堂
明治5年~没年不明
絹本
個人蔵
51.0 x 201.0 cm

加藤栢堂は、京都岡崎の生まれ。岸竹堂・望月玉泉門人。本図は、本阿弥光甫の名作『牡丹・藤・楓』三幅の画題から、楓図を空中冩とし、見事なまでの完成度で表現した作品。琳派の代名詞、幹や葉の垂らし込み技法は元より、配色の構成まで見事に再現している。
 
 
秋草流水図
酒井道一
1846-1913
絹本着色
個人蔵
46.5 x 192.0 cm

酒井抱祝極書・清水登添状。
酒井道一は、江戸琳派・鈴木其一に学び、抱一の後を承け雨華庵四世を継いだ。幕末~明治期という変革の世において、新たなデザイン性や、鮮やかな配色をもって、「内国勧業博覧会」や「絵画共進会」、「シカゴ万国博覧会」等に出品し、江戸~明治期を代表する琳派絵師として活躍、内外ともに高く評価されている。本品は、琳派の代名詞いおわれる流水を中央に描き、それに沿う形で、鮮やかな秋草や鶉、流水面に月を描いた華麗な一点である。秋の彼岸、中秋の名月を表したのか、つがいの鶉のうち、一羽は空を見上げ、もう一羽は川に映る月を眺めている。まさに、道一の名作の一つに数えられる作品である。
 
 
蓬莱山水図
神坂雪佳
1866-1942
絹本着色
個人蔵
56.0 x 199.0 cm

神坂雪佳は、明治・大正・昭和にかけて活躍した近代琳派の画家・図案家。近年、その作品がエルメスのカタログ『Le Monde d'Hermes』の表紙に採用され、一躍脚光を浴びた。約100年前に考案したとは思えない斬新さや、ユーモラスなデザイン性をたたえる作品群から、雪佳は、図案家として歴代琳派絵師のなかで突出した存在と評されている。そのデザインは、さらに遡って、大阪で活躍した琳派絵師・中村芳中と相通ずるとこともあり、現代の視点からも、可愛らしく親しみを感じられる。本作では、琳派最後の継承者として、伝統的な垂らし込み技法を、「蓬莱山水図」と言う伝統的な画題に組み込んで売いる。伝統を受け継ぎつつも、やはり、雪佳の真骨頂、のどかでユーモラスな蓬莱山を描きあげた。
 
 
朝顔図
中野其豊
1795-1858
絹本着色
個人蔵
31.7 x 134.5 cm

抱一、其一と続く江戸琳派の中で,其一の弟子として名が挙がる中野其豊。その作品には、師である其一の作と酷似する点が多く、中野其明、村越其栄、向栄と同様に、江戸琳派色が強い。本図は小品ながらも、色鮮やかな朝顔を印象的に描いたものだが、やはり其一を思わせる作風である。其豊は其一と比べ、個性には乏しいながら、その技量でもって、江戸琳派の中核を担った重要な作家といえる。
 
 
桔梗図
尾形光琳
1658-1716
紙本着色
個人蔵
64.8 x 114.5 cm

琳派の絵師といえば、まず名が挙がるのが尾形光琳であろう。琳派の大成者であり、その礎を築いた作家である。光琳は、本阿弥光悦・俵屋宗達に私淑しながら、新たなテイストで琳派を再興し、江戸前期~中期の移り行く世俗を鮮やかに写し取った。本図は秋の七草の一つである桔梗を、いかにも日本的な秋を表す抒情的なモチーフとして描いたもの。雲母引きの本紙に紺青の花弁を差し、葉脈には金彩の筆を取り、観る角度によって変化する立体感を見事に表現している。